英語本:「日本人の9割に英語はいらない」

「日本人の9割に英語はいらない」(成毛眞著、祥伝社)という本を読みました。

論旨としては、「確かに英語ができればビジネスでは有利になるかもしれないが、その一方で、伝統文化やアイデンティティを損なう危険がある、世界で起きているほとんどの問題は欧米発であり、わざわざこのような英語圏の人と同類に成り下がる必要はない」、という内容でした。

もちろん色々な考え方があるので、これはこれで日本の英語教育に問題提起するという重要な役割を果たしていると思います。ただ、肝心の主張の中で「アイデンティティ」と英語を使ってしまっているのは、言語には翻訳では超えられない壁があることを自ら露呈してしまっている感は否めません。どうせなら、ここは日本人の「アイデンティティ」を貫き通して欲しかったです。

さて、英語は必要なのでしょうか、必要ないのでしょうか。このように万人に対する答えがない質問に対しては、まず事実を正しく認識し、その上で自分の状況にあてはめてみればいいと思います。

Harvard Business Reviewによれば、世界の人口約70億人のうち、英語人口は約17.5億人だそうです。このうち、英語を母語としている人は約4億人で、残りはフィリピン等第二言語として英語を使用している国の人です。少し古い文部科学省のデータでも英語を母語とする人は約4億人とされていたので、母語のボリュームとしてはこのあたりが正しそうです。ちなみに母語としては1位は当然中国語、3位はスペイン語です。第二言語まで含めれれば、英語が世界一の言語であることは間違いない事実であるといえるでしょう。

では、この世界一の言語を身につけておくことは、あなたにとって必要なのでしょうか、必要ないのでしょうか。ここでやはりまた事実を考えると、まず日本の人口が今後減っていくことは事実です。そうすると供給面では労働力人口が減っていきますし、需要面でも消費が減っていきます。したがって、日本全体が縮小していくのが自然な流れです。企業はこの流れを見越してどんどん海外に出て行っています。大企業だけではありません。中小企業も海外展開なしでは拡大どころか現状維持も難しくなっています。

さて、あなたはどのような会社に勤務されていますでしょうか。日系大手企業でしょうか、外資系企業でしょうか。であれば、「英語は必要ない」というのは少々強がりに聞こえるかもしれません。なぜなら企業は必要としているからです。

企業は必要でも、自分がいる部署にはやっぱり必要ないという状況もあるかと思います。ただ、企業が海外へ需要を求めるとともに、国が海外からのインバウンド需要の喚起を推進していることは事実であり、労働力人口縮小対策のために、移民受け入れが抜本的に緩和される可能性があることも事実です。

このように、日本が直面している状況を考えると、「必要ない」と切り捨ててしまうのはやや早計な気がします。英語が必要ない環境に閉じこもっていてもいいのですが、これからどんどん複雑化する世の中に柔軟に対応してくためには、英語ができたほうがベターであることには疑問の余地がないのではないでしょうか。

日本人は海外の文化を取り入れて、これを自国の文化に融合させることに長けているように思えます。大昔に遡れば、中国から漢字を取り入れて仮名文字を発明したり、最近ではお寺でクリスマス会やYogaをやったり、あまり細かいことを気にせずに、よいと思ったものはなんでもやってみる、素晴らしいことだと思います。歴史を紐解いていけば、こういった日本人の頭の柔らかさが、日本の発展に寄与してきた面は大きいかと思います。

著者のいうように、「英語圏の人と同類に成り下がる」、もう少し噛み砕いて言えば、なんでも欧米が正しいという欧米迎合主義に陥る必要はありません。ロンドンで2年間生活して痛感しましたが、日本の技術の高さ、多彩な食文化、サービスのクオリティ、謙虚な気質等、やはり日本はすばらしい国です。もっとすなおに、こういった日本の素晴らしさを、英語という世界一の言語を通じて世界に広め、さらに日本が発展することを願う、と前向きに考えてもいいのではないでしょうか。